ヒト単一卵胞発育機序


日産雑誌54巻9号 「不妊治療の最前線-多胎妊娠を予防するために」より抜粋

ヒト卵胞の発育過程は、原始卵胞、一次卵胞、二次卵胞、前胞状卵胞、初期胞状卵胞及び胞状卵胞に分類される。

卵胞発育過程はゴナドトロピン依存性発育とゴナドトロピン非依存性発育に大別され、
直径が0.12〜0.2mmで二次卵胞以上に顆粒膜細胞数を有し卵胞腔を認めない前胞状卵胞から直径2mm以下で卵胞腔を有する胞状卵胞までは月経周期的ゴナドトロピンの変動に反応せずゴナドトロピン非依存性で、前胞状卵胞から直径2〜5mmの胞状卵胞になるまでに約70日を要する。なおこの時期の卵胞もゴナドトロピンには反応する。
一方直径2〜5mm以上の胞状卵胞は周期的ゴナドトロピンの変動に反応して発育し、約14日間で単一排卵する。

正常月経周期において,卵胞の発育は月経開始日の約2日前より始まる。
すなわち黄体の退縮によりプロゲステロン(P)・エストラジオール(E2)・インヒビンAの分泌低下が起こり,これらが合同して黄体期後期〜卵胞期初期に血中FSH値の上昇とLHパルス頻度の増加をもたらす。

血中FSHの上昇により直径2〜5mmの卵胞群が発育を開始し(卵胞群の発育;recruitment),さらに最もFSHに対する感受性のある卵胞が8〜10mmに達する頃には卵胞群間に大きさの偏りが発生し主席卵胞が出現する(主席卵胞の選別;selection)。
卵胞期初期の血中FSHのピーク時期と主席卵胞の出現時期には時間的ズレがあり,卵胞期初期に高値を示す血中FSH値は卵胞群発育時期には卵胞群から分泌され
るインヒビンBにより,また主席卵胞出現時期以降は主席卵胞から分泌されるE2とインヒビンAのnegative feed-back により抑制され,卵胞期中期〜後期には血中FSHは減少する。
この結果,主席卵胞のみが発育しその他の卵胞群は閉鎖卵胞に陥る(主席卵胞の発育;
dominance)。この際主席卵胞がFSHに対する感受性を増加させ,また次席以下の卵胞群が閉鎖卵胞に至る機序として,性ステロイドホルモン(E2・アンドロケン)やインスリン様増殖因子(Insulin-1ike growth factor IGF)系,腫瘍化増殖因子(Transforming growth factor(TGF)-βスーパーファミリー(インヒビン・アクチビン)などさまざまな卵巣内局所因子による傍分泌・自分泌調節が関与する。
また主席卵胞から次席以下の卵胞群に対して抑制因子の作用も示唆されている。

 このようにヒト単一卵胞発育はゴナドトロピンを中心とする内分泌調節と各種の卵巣内局所因子による傍分泌・自分泌調節により引き起される。

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